ある薬剤師の1日
具体的に、「薬剤師」がどんなところで、どんな仕事をしているのか、あなたは知っていますか?
「かぜでのどが痛くなったとき、薬局に行って症状に合う薬を選んでもらった」
「病院で薬を処方され、服用時の注意点などを教えてもらった」
このように、患者の症状に合った薬を選んだり、医師が用意した処方せんに記載されている薬を調製して、患者に服薬指導を行ったりするのが薬剤師の仕事です。
ここでは、薬剤師の代表的な仕事場である、薬局で働くケースでの代表的な1日をご紹介しましょう。
8時40分 この薬局には、5人の薬剤師が勤務しています。まずは、9時の開店の準備として、機材などの電源を入れたり、簡単な清掃を行ったりします。
開店準備が終わったら、いつものように朝礼が始まります。管理薬剤師から薬についての情報や業務上の連絡事項などが伝えられます。
9時 開店の時間です。
この薬局は、保険薬局です。保険薬局とは、病院で出された処方せんにもとづき、健康保険によって薬を調剤することができる薬局のことです。もちろん、処方せんがなくても購入できる大衆薬も扱っています。
開店から1時間ぐらいは、処方せんをもって来る患者さんが少なく、余裕のある時間帯です。この間に、錠剤などをよく出る数ごとに分けておくなど、患者さんの待ち時間を短くするための準備をしておきます。
10時 患者さんがたくさん来店し始め、忙しくなってきました。医師が患者さんの症状に応じた薬の調合・服薬法を記載している処方せんにもとづいて、薬を調製します。これを調剤といいます。
調剤の際は、たんに処方せんに記入されている薬をそろえればよいというわけではありません。患者さんがほかに飲んでいる薬があれば、飲み合わせによるトラブルがないかなど、チェックする必要があります。このとき、患者さんの病歴やアレルギーの有無といった体質、これまでに処方した薬などが記録されている薬歴を確認します。
この薬局では、患者さんに「お薬手帳」をわたしています。お薬手帳はその患者さんに処方された薬の種類や量、回数などを記録しておくためお手帳です。この手帳に薬局でわたされた薬の説明書をはっておいたり、購入した市販薬を記入したりしておけば、別の薬をもらうときに、医師や薬剤師にその手帳を見せて、薬の重複投与や相互作用がないかなどをチェックしてもらうことができるのです。
初めて来た患者さんには、アレルギーなどの体質、現在使用している薬、妊娠・授乳中であるかなどを聞き、薬歴・お薬手帳を作成します。
次に、処方内容に不都合がないか処方せんをチェックします。必要があれば、医師に確認します。
特に問題がなければ調剤します。必要に応じて薬剤を粉砕することなどもあります。調剤内容は薬歴に記録しておきます。
そして、患者さんに、薬の効能・効果や服薬時の注意点などを説明します。これを服薬指導といいます。その際、薬の名前、効能・効果・服用量、回数などを記載した説明書をわたしています。
12時 交代でお昼休みをとります。患者さんの混み具合によって、少し遅くなる場合もあります。
13時 患者さんの数が少なくなってきたので、薬品の補充を行います。在庫不足のものは発注しますが、多く買いすぎてもいけません。どのくらいの出庫数があるか、予想するのが難しい仕事です。
14時 続いて、よく出る薬剤をあらかじめ作っておく予製を行います。軟こうを小分けにしたり、散剤(粉薬のこと)を分包したり、容器・備品の補充なども行います。
16時 近くの病院の午後の診療開始が15時~からなので、このころから処方せんをもってくる患者さんが増えてきます。再び忙しい時間帯になってきました。
この薬局では、薬剤師が3時間30分ずつの交代で大衆薬の販売を担当しています。
医師の処方せんがなくても購入できる大衆薬は、医療用の医薬品にくらべて作用が穏やかで安全性の高いものが多いのですが、服用にあたって注意しなければならない点があります。大衆薬を買いに来たお客様に症状などを聞き、適切な薬を選ぶのも薬剤師の大切な仕事なのです。
17時50分 「胃の薬が欲しい」という若い女性のお客様が来店しました。「薬を飲むのはだれですか?」「いつから、どんな症状があるのですか?」「ほかの薬を飲むなど何か処置をしていますか?」「薬を飲んでアレルギー反応や副作用が出たことはありますか?」ということを尋ねます。薬を飲むのはお客様本人、昨日会社の宴席で食べ過ぎてしまい胃がもたれる、特に処置はしていないとのこと。女性のお客様だったため妊娠の可能性も確認し、胃腸薬のなかから食べ過ぎに効く消化剤を選んで勧めました。
胃腸薬には、消化剤のほか、胸やけに効くせい制酸剤があります。胃酸を抑える制酸剤は消化剤とまったく反対の作用があるものなので、間違って使用するとかえって症状を悪化させてしまいます。そのお客様に合った薬を選ぶためには、このように詳しく症状などを聞くことが必要なのです。
19時30分 閉店の時間になりました。シャッターを下ろし、店内の片づけを行います。
19時45分 「お疲れさまでした」。これできょうの業務は終了となります。