薬剤師の将来
薬剤師には、医師や看護師のような医療の担い手としての役割も期待されています。病院で働く薬剤師は、入院患者への服薬指導や副作用チェックを行うなど、患者の治療方針を決定する際に薬の専門家として意見を述べる場合もあります。
最近、このような臨床薬剤師が注目されています。病院で働く薬剤師は、いわゆる「病棟担当薬剤師」としての役割が求められてきているのです。院内で調剤業務をするだけでなく、「チーム医療」の一員として、医師の回診に同行するなど、看護師や他の医療スタッフとも協力し、患者1人ひとりに応じた最適な薬の選択や投与方法などに関与していきます。
医療過誤の多くは医薬品によるものといわれます。患者の薬歴や副作用歴の管理、服薬指導、医薬品管理、医薬品情報の提供など、さまざまな仕事があります。今後、薬剤師の臨床におけるかかわりの度合いが、医療の質や患者の満足度を大きく左右するようになるでしょう。
また、薬局の薬剤師には、地域の人々の健康を守るコンサルタントとしての役割が求められています。「かかりつけ薬局」ということばを聞いたことがあるでしょうか?かかりつけ薬局とは、あなたが治療を受けている内科、眼科、整形外科などさまざまな病院でもらった処方せんのすべてを調剤してもらうための行きつけの薬局のことです。かかりつけ薬局をもつと、今までいろいろなところでもらっていた薬を1か所で調剤してもらうことになるので薬歴管理がしっかりでき、薬の重複投与や相互作用による副作用などを避けることが容易になります。大衆薬の服用や医療、衛生などについて薬剤師に相談することもできます。
かかりつけ薬局では、薬局に薬を取りに来ることのできない在宅で療養している患者のところに、服薬指導や医薬品管理指導などのために訪問する在宅医療業務を行ったりもします。
今後、薬剤師には、薬学だけでなく医学の知識を身につけることが必須となります。また知識だけでなく、医療人としての自覚や倫理観などをもつことも必要です。
また、1993(平成5)年のソリブジン事件(詳しくは後述)など薬害事件をきっかけに、製薬会社から医療機関への情報伝達の正確性、医療機関での薬歴管理の重要性が再確認されました。それまで営業職の濃かったMRに、1997(平成9)年認定資格制度が導入されるなど、医薬品セールス担当者の医療知識を向上させる試みがなされています。
こういったことを背景に、1996(平成8)年から薬剤師国家試験の出題基準が大幅に改訂されました。さらに、2006(平成18)年度から薬系大学の薬学科は6年制となり、医療薬学系の科目が充実され、病院および薬局実習の期間が計5ヶ月間と長くなりました。
薬剤師は今後ますますその活動領域を広げ、また責任が重い専門職となっていくことが予想されます。楽に取れる資格でも、楽に続けていける仕事でもありませんが、それだけに社会的信頼が厚く、やりがいを感じることができる職業です。
ソリブジン事件とは
1993(平成5)年9月、帯状疱疹の治療として発売された抗ウィルス剤・ソリブジンは発売1ヶ月で15人の死者を出してしまいました。原因は、ソリブジンとフルオロウラシル系の抗ガン剤の併用による副作用です。
ソリブジンの開発にあたっての臨床試験では244人中3人が死亡していましたが、承認申請書の資料には1人しか書かれておらず、データ隠しが行われていました。ソリブジン製造を承認した厚生省(現・厚生労働省)審議会の委員102人中14人がこの臨床試験にかかわっていたことも発覚しました。
また、社内用MRの研修テキストには「最悪の場合は死に至る」とあったにもかかわらず、発売されたときの貼付文書には「併用投与を避けること」という抑えた表現になっていたこともわかりました。
この時間をきっかけに、製薬会社の新薬開発に挑む際の姿勢、医療関係者の倫理観、製薬会社から医療現場への情報提供の正確性などが見直され、薬剤師の薬歴管理の重要性も改めて認識されることとなりました。